1. 事件の背景
キム・スヒョンは韓国を代表する俳優で、「涙の女王」などのヒット作で知られています。
一方、キム・セロンは子役出身の女優で、2022年の飲酒運転事故をきっかけに芸能活動を休止し、2025年2月に24歳で亡くなりました。
彼女の死後、遺族とYouTubeチャンネル「カロセロ研究所」が、キム・スヒョンとの過去の交際を暴露し、彼の名誉を傷つける主張を展開しました。
問題の発端は、キム・セロンが生前にSNSに投稿したキム・スヒョンとのツーショット写真やメッセージが「カロセロ研究所」によって公開されたことです。
遺族は、キム・セロンが15歳（未成年）の2015年からキム・スヒョンと6年間交際していたと主張し、彼と所属事務所ゴールドメダリストに謝罪を求めました。
これに対し、キム・スヒョン側は「交際は2019年夏から2020年秋までの1年余りで、未成年時ではない」と反論。
両者の主張が対立する中、2025年3月20日、キム・スヒョン側が遺族と「カロセロ研究所」を告発する事態に至りました。
2. 告発の内容とその理由
キム・スヒョンと所属事務所ゴールドメダリストが、キム・セロンの遺族および「カロセロ研究所」の運営者キム・セイを告発した理由は、主に以下の3点です。
(1) プライバシー侵害と性的羞恥心の誘発
「カロセロ研究所」は、キム・スヒョンがズボンを脱いだ状態で撮影された写真をYouTube生配信で公開しました。ゴールドメダリストは、これが交際中の2020年に撮影された私的な写真であり、性的羞恥心を誘発するものだと主張。遺族がこの写真を提供し、公開を指示したとして、両者を「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法」（カメラ等利用撮影物頒布）違反で告訴しました。
(2) 名誉毀損と虚偽事実の流布
「カロセロ研究所」は、キム・スヒョンがキム・セロンの未成年時に交際し、彼女を「グルーミング」したと主張。さらに、彼女の飲酒運転事故後の7億ウォン賠償金請求が精神的圧迫を与え、死に繋がったと非難しました。キム・スヒョン側は、これを「明白な虚偽事実」と否定し、名誉毀損で法的対応を進めています。特に、公開された写真や手紙が2019年以降のものだと証明し、未成年交際説を反駁しています。
(3) 継続的な脅迫と被害拡大
「カロセロ研究所」は、さらなる暴露を予告し、「性的な写真や動画を公開する」とキム・スヒョンを脅迫。ゴールドメダリストは、この行為が繰り返される恐れがあるとし、強硬な法的措置が必要と判断しました。遺族に対しても、当初は故人への配慮から告訴を控えていたものの、写真提供の重大性から告発に踏み切ったと説明しています。
3. 法的展開の見通し
この告発がどのような結果をもたらすか、以下に詳細に分析します。
(1) 性暴力特例法違反の成立可能性
私的な写真を無断で公開し、性的羞恥心を誘発する行為は、韓国法の「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法」第14条に抵触する可能性があります。写真が本物で、同意なく公開されたことが証明されれば、「カロセロ研究所」運営者と遺族に懲役（最大5年）や罰金が科される可能性があります。
(2) 名誉毀損罪の適用
韓国では事実か虚偽かにかかわらず、他人の社会的評価を低下させる行為は名誉毀損罪に該当します。「カロセロ研究所」の未成年交際説やグルーミング主張が虚偽と立証されれば、刑事責任が問われます。一方、キム・スヒョン側が主張する「2019年以降の交際」の証拠が不十分だと判断されれば、逆に遺族側の主張が認められる可能性もゼロではありません。
(3) 民事訴訟の可能性
キム・スヒョンは、精神的被害やイメージダウンに対する損害賠償を求める民事訴訟を提起する可能性があります。過去の類似ケースでは、芸能人がYouTuberから数千万ウォンの賠償金を勝ち取った例があり、勝訴すれば経済的制裁となり得ます。
(4) 遺族側の反訴リスク
遺族は、キム・スヒョンとゴールドメダリストを名誉毀損や精神的苦痛で逆に訴える可能性を示唆しています。特に、賠償金請求や「虚偽コメント」がキム・セロンの死に影響したとする主張が法廷で争点になるかもしれません。ただし、証拠の信憑性が鍵を握ります。
(5) 捜査の焦点
警察は、公開写真の撮影時期や入手経緯、両者の交際期間、脅迫の意図を調査します。特にデジタル・フォレンジック（写真のメタデータ解析）が実施されれば、真実が明らかになる可能性が高いです。
4. 芸能界への波及効果
この事件は、韓国芸能界に以下のような影響を及ぼす可能性があります。
(1) サイバーレッカーへの規制強化
「カロセロ研究所」のような暴露系YouTuber（サイバーレッカー）への批判が高まり、国民請願や法改正の動きが加速するかもしれません。既に類似行為への罰則強化を求める声があり、政府が動けばYouTube運営にも影響が及ぶでしょう。
(2) 芸能人の法的対応の増加
キム・スヒョンの強硬姿勢は、他の芸能人にも影響を与え、虚偽情報やプライバシー侵害に対する訴訟が増える可能性があります。これにより、YouTuber側も慎重な発信を迫られるでしょう。
(3) キム・スヒョンのキャリアへの影響
騒動はキム・スヒョンの清廉なイメージに一時的な打撃を与えました。広告契約解除（例: PRADA）や次回作「ノックオフ」への懸念も浮上しています。しかし、法的勝利を収めれば信頼回復に繋がり、長期的な影響は限定的と見られます。
(4) プライバシー保護の意識向上
芸能界全体で、私生活の保護やSNS管理の重要性が再認識されるでしょう。事務所は契約にプライバシー条項を強化し、メディアとの関係も見直される可能性があります。
5. 総評
キム・スヒョンが遺族と「カロセロ研究所」を告発したこの事件は、プライバシー侵害と名誉毀損の境界を巡る典型的な事例です。
法的には、性暴力特例法や名誉毀損罪の適用可能性が高く、デジタル証拠が決定的な役割を果たすでしょう。
ただし、遺族側の反訴や世論の動向次第で、状況が複雑化するリスクもあります。
芸能界への影響としては、サイバーレッカーへの抑止力となり得る一方で、キム・スヒョンのイメージ回復が鍵となります。
彼の毅然とした対応は支持を集める可能性があり、ファン層の結束力も試されるでしょう。
一方で、キム・セロンの遺族にとっては、故人の名誉回復という当初の目的が法廷闘争で埋没する恐れがあり、悲劇的な結末がさらに深まる懸念もあります。
個人的には、YouTuberの無責任な暴露が芸能人を追い詰める現状に警鐘を鳴らしたいです。
キム・スヒョンが法的正義を求める姿勢は理解できるものの、遺族の感情も無視できません。
真相が明らかになり、双方が納得できる解決に至ることを願いますが、現時点では混迷が続くでしょう。
この事件は、メディア倫理と人権のバランスを考える契機となるべきです。
